黒皮の手帳

 いつも持ち歩いている黒皮の手帳に、48回投与したペグの量が書いてある。5回目から最後まで半分の量だったので、当初の予定の半分しか投与していない。
 好中球の減少で治療中止になりそうだったので、半分にしたわけだが診察の時に、20回目くらいまで、全量投与に戻してもらいたいと再三訴えたが、
 「F君、4回で陰性化したのだし、ここは半分で数値も安定しているのだからこのままでいいだろう」とそのつど主治医に諭された。
 ある時は、
「先生、一回全量に戻してくれませんか、やるところまでやってみたいです。数値が悪くなったら中止は嫌だけれど、半分に戻しますよ」
「F君、(おもむろにS社製の治療云々を出して)ここに書いてあるのだからそんな無謀なことはできないよ、君がよくても君の奥さんが理解してくれないよ何かあったら」
なんていう会話もあった。
 今考えると、とてもやさしくて思いやりのある主治医だった、私はお仲間にも恵まれ主治医にも恵まれとても幸せだと思う。
 職場でも、私の強面が幸いして変な偏見も聞こえてこなかった(多少の絶望予測はあったと思う)
 しかし主治医は、冷静な部分もあり私が副作用の、脱毛、かゆみ、だるさを訴えても「F君、これは抗がん剤なのだからね」と気にはかけるそぶりも見せなかったが、ウツっぽいと訴えた時だけは、目を見開いて「薬の副作用でおこっているのだから、躊躇せずに薬で押さえ込もう」とレンドルミンを処方してくれ、これで駄目だったら良いうつの薬もあるからと話してくれた。とても気分が落ち着いたのを覚えている。それだけうつは気をつけないといけないということなのだろう。